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福岡地方裁判所小倉支部 昭和51年(ワ)32号 判決 1980年2月04日

原告 日本共産党北九州市委員会

右代表者委員長 大和憲三

右訴訟代理人弁護士 坂元洋太郎

右同 吉野高幸

右同 塘岡琢磨

右同 河野善一郎

右同 安部千春

右同 前野宗俊

右同 高木健康

右訴訟復代理人弁護士 神本博志

右同 田邊匡彦

被告 北九州市

右代表者市長 谷伍平

右訴訟代理人弁護士 福田玄祥

右同 吉原英之

主文

一、被告は原告に対し、金五九万七、〇〇〇円及びこれに対する昭和五一年二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四、この判決は原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和五一年二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件使用拒否の経緯

(1) 原告は北九州市において日本共産党を代表する機関であるが、北九州市における部落解放同盟の無法と不公正、教育行政への不当な介入及び被告のこれらに対する協力、加担の実態を市民の前に明らかにし、部落解放運動を正しく進めることを目的として、昭和五〇年一二月一五日午後五時より同一〇時までの間、北九州市立若松文化体育館(以下単に「体育館」という。)において、日本共産党大演説会を開催することを企画し、同年一一月二一日午前一一時ころ原告委員会の委員である吉田照雄が右体育館に対し、電話で前記日時の体育館の使用承認申込をなし内諾を得た。

(2) 右体育館の使用は、通常口頭で申込をして内諾を得、後日使用者が使用料とともに使用承認申請書を提出するのが慣例となっているのであるが、同年一二月一〇日右吉田が右体育館に対し、前記使用承認申請書と使用料を提出しようとしたところ、右体育館館長の田中種昭は集会の内容が被告の行政目的と相容れないことを理由として右受理を拒否した。

(3) そしてさらに同月一二日被告市議会応接室において、日本共産党の市議会議員塚内浩之らが教育長小林実らに対して、右体育館の使用承認を求めた際にも、右小林らは「市は同和行政を重点政策としてやっていて、その方向は正しいと信じている。あなたたちの集会はこれをまっこうから批判する演説会だから体育館は貸せない。」と述べ、地方自治法第二四四条第二項の「正当な理由」並びに北九州市教育施設の設置及び管理に関する条例(以下「条例」という。)第六条第三号の「その他施設の管理に支障を及ぼすおそれがあるとき」に各該当するとして、右体育館の使用を拒否したため、結局前記演説会は開催することができなかった。

2  本件使用拒否の違法性

(1) 憲法第二一条違反

原告が開催しようとした右演説会は前記のとおり原告の同和問題に対する意思表明のための政治集会であり、憲法第二一条によりその自由が保障されるべきものであるが、被告は右集会の内容を事前に検閲し、自己に不都合な内容の集会であることを理由に、右使用拒否をなしたものであるから、右使用拒否は憲法の保障する表現の自由、集会の自由を侵害するもので憲法第二一条に違反する。

(2) 地方自治法第二四四条第二項違反

体育館は住民の諸種の集会に利用される「公の施設」であり、「普通地方公共団体は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。」(地方自治法第二四四条第二項)と規定されているにも拘らず、前記のとおり被告は集会の内容が自己に不都合であるという、きわめて不当な理由で、右体育館の使用拒否をなしたものであるから、右使用拒否は同項に違反するものである。

(3) 地方自治法第二四四条第三項違反

又「普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない。」(同法第二四四条第三項)と規定されているのであり、右体育館については今まで先予約があったり、会館自体の使用不能の場合以外で、使用拒否された事例はなく、又本件以降も他の団体の使用については被告は拒否することなく使用させているのであるから、本件使用拒否は右差別的取扱いであることが明らかであるので、同項にも違反するものである。

(4) 条例第六条違反

条例は地方自治法第二四四条の二第一項に基づき、公の施設の設置及び管理に関する事項について定められたもので、第六条で教育委員会が社会教育に関する公の施設の使用制限をなしうる事由として第一ないし第三号できわめて限定的な事由を列挙しているところ、前記のとおり右使用拒否の理由として被告は第三号の「その他施設の管理に支障を及ぼすおそれがあるとき」に該当するとしたのであるが、原告は右体育館を演説会のために使用しようとしたもので、原告の使用により右体育館の管理に支障を及ぼすとは考えられず、したがって右使用拒否は右条例にもまた違反するものである。

3  被告の責任

被告は体育館の設置並びに管理者であり、右管理権は被告の機関である教育委員会に属し、同委員会はさらにその権限を教育長に委任しているところ、前記のとおり教育長らは何ら正当な理由がないのに原告が憲法によって保障されている集会の自由、表現の自由を行使するのを故意に阻止し、右使用拒否をなしたものであり、したがって被告は国家賠償法第一条第一項により、原告が被った損害を賠償する責任がある。

4  損害

(1) 宣伝活動費等

原告は前記演説会を成功させるために、約一ヵ月前から宣伝活動等に取り組んできたのであり、その活動のために少なくとも次のとおり計二四万七、〇〇〇円の出費をなしたので、右被告の違法な使用拒否により同額の損害を被った。

(Ⅰ) 立看板費用 四万五、〇〇〇円

(Ⅱ) 演説会宣伝用チラシ費用 九万七、五〇〇円

(Ⅲ) 入場整理券費用 一万九、五〇〇円

(Ⅳ) 福岡民報号外広告費用 五万円

(Ⅴ) 宣伝カー使用料 三万五、〇〇〇円

(2) 非財産的損害

原告は北九州市における部落解放運動の前進をその政治活動の重要な一部としており、その意味でも本件演説会にかける原告の期待は大きなものであったにも拘らず、被告は前記のとおり違法な本件使用拒否をなし、表現の自由、集会の自由という原告のような政治団体にとって最も大切な権利の行使を妨害したものであり、この被告の違法な行為を中止させるために、原告は市民の大集会を開いたり、学者文化人のアピールを出すなど多くの活動をせざるを得ず、これに要した原告の労苦は甚大なものであり、右原告の非財産的損害は二五〇万円をこえるものである。

(3) 弁護士費用

原告は本件使用拒否により、右(1)(2)の損害を被ったところ、被告が右責任を認めないので、やむなく本件訴訟を提起することとし、そのため原告代理人に事件の依頼をし、右代理人らに対して着手金として三〇万円支払ったので、結局右被告の行為により右金額の損害を被った。

5  よって被告に対し、国家賠償法第一条第一項に基づき、右損害金のうち三〇〇万円(非財産的損害については内金請求)及びこれに対する不法行為の日の後で訴状送達の日の翌日である昭和五一年二月一日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

(認否)

1(1) 請求原因1の(1)の事実のうち、原告がその主張の日時に吉田照雄をして右体育館の使用承認申込をなしたことは否認し、その余の事実はすべて知らない。原告主張の日時ころに右吉田より電話で同年一二月一二日から同月一七日までの間であいている日の問い合わせがあったが、それは正式な使用承認申込ではなかった。

(2) 同1の(2)の事実のうち、原告が主張する体育館の使用に関する慣例の点については否認し、その余の事実は認める。右体育館では口頭あるいは電話で連絡があった時点で、もしその日時があいていればその旨告げ一応予定表にメモするが、それは正式の使用申込ではなく、後日申込者に使用承認申請書に使用目的を記載させて提出させ、これをもって使用申込の扱いとしている。

(3) 同1の(3)の事実のうち、原告主張の日時場所でその主張の者が体育館の使用承認を求め、教育長が原告主張の法的根拠を示してその使用を拒否したことは認めるが、右教育長の発言内容については否認する。その発言は「このたびの予定されている集会は市の同和行政を不法無法だとして批判するような演説会ということであり、これは市の同和行政の円滑な執行に重大な支障をきたすので許可するわけにはいかない。」という趣旨であった。又原告は当日体育館前の道路上で演説会を事実上開催しており、原告の目的は十分に達せられている。

2 請求原因2の(1)は争う。同2の(2)のうち、本件使用拒否がその主張の法令に違反するという点は争うが、その余の事実は認める。同2の(3)についてはその主張の法令の規定があること、本件以降他の団体の使用を拒否したことがないとの点は認めるが、右使用拒否が差別的取扱いになるという点は争う。同2の(4)のうち、その主張の条例の規定内容及び原告主張の条例の条項に該当するとして被告が本件使用拒否をなしたことは認めるが、その使用拒否が右条例の条項に違反するとの点は争う。

3 請求原因3の事実のうち、被告が右体育館の設置並びに管理者であること、右管理権は被告の機関である教育委員会に属し、同委員会はさらにその権限を教育長に委任していることは認めるが、その余は争う。

4 請求原因4の事実のうち、原告がその主張の出費をなしたことは知らない。そして原告がその主張の損害を被ったという点についてはすべて争う。被告は前記のとおり原告に対して体育館の使用を許可した事実はなく、原告が勝手に右体育館を会場と定めて宣伝活動をしたのであるから、その経費について被告がこれを負担するいわれはないものである。

5 請求原因5は争う。

(被告の主張)

本件使用拒否の適法性

被告は本件体育館の使用が前記のとおり地方自治法第二四四条第二項にいう施設利用拒否の正当な理由に該当し、また条例第六条第三号に該当するので使用拒否をなしたものであるところ、右条例の条項でいう「管理に支障を及ぼすおそれ」の「管理」とは単に物的設備としての会場の管理のみではなく、広く行政目的に沿った管理を指すのであり、したがって公の施設を使用させることが被告の行政上の基本的立場と相容れない場合、あるいは基本的人権の侵害をきたすおそれがある場合には右条項に該当するといわねばならない。

ところで被告は同和対策審議会答申及び同答申を受けた同和対策事業特別措置法に基づき同和対策事業を市政の最重要課題の一つとして推進することを行政の基本的方針としており、そしてその推進にあたっては地区住民の自発的意思に基づく自主的運動と緊密な連携を保ちつつ実施しているのであるが、原告の本件体育館の使用目的は、被告の右同和行政について、これを不法無法なものときめつけ、かつ被告が同和行政推進のために連携を保っている地区住民の自主的運動に対して、これを無法と恫喝を押し通すものだとして、いわれなき誹謗と中傷を加えるためのものであり、このような会合に被告が公の施設を利用させることを認めれば、前記地区住民の自発的意思に基づく自主的運動と被告との連携に重大な障害を惹起させ、今後の同和対策事業に大きな混乱と支障が生じるばかりでなく、右地区住民の自主的運動に対する誹謗、中傷が流布宣伝され、市民に対しあたかも同和地区住民が横暴と利権あさりをする無法と恫喝の集団であるかの如き誤った予断と偏見を植えつけることにもなり、これにより部落差別をさらに助長する結果にもなり、その基本的人権の侵害を来すことになるのである。

この点から本件使用拒否は正当かつ適正なものというべきである。

三  被告の主張に対する原告の反論

被告の主張はすべて争う。

原告は北九州市における日本共産党を代表する機関であり、右日本共産党は部落解放運動について民主主義擁護闘争の重要な一分野として真の解放のために闘ってきた者であるが、今日被告が同和行政を進めるにつき連携を保っているという部落解放同盟の無法な暴挙が各地で生じており、北九州市においても右解同の一部幹部と被告市長とが結託して市政にもちこんでいる無法と不公正、教育行政への不法不当な暴力的介入の横行が重大な問題となっているのであり、原告は前記のとおり右解同の無法ぶりとこれと連携を保っている被告の不当行政を広く市民の前に明らかにし、同和問題の正しい解決をめざして本件演説会を企画したものであり、したがって右演説会は被告が主張するようないわれなき誹謗、中傷の場ではなく、又被告の主張する同和問題に対する考えは結局一つの考えにすぎず、それが正しいという保証はないのであり、被告主張のとおり同和問題の解決が重要な課題であればあるほど、いろいろな意見を保障すべきであり、本件演説会のような被告の同和行政に批判的な意見の発表を妨害するのは民主主義のルールをはずれるものといわなければならず、いずれにしても被告の本件使用拒否は前記のとおり違憲違法なものである。

第三証拠《省略》

理由

一、1 請求原因1の事実のうち、昭和五〇年一二月一〇日に吉田照雄が体育館の使用承認申請書と使用料を提出しようとしたところ、右体育館館長の田中種昭が集会の内容が被告の行政目的と相容れないことを理由として右受理を拒否したこと、同月一二日に被告市議会応接室において、日本共産党の市議会議員の塚内浩之らが教育長小林実らに対して、右体育館の使用承認を求めた際に、右小林らが地方自治法第二四四条第二項、条例第六条第三号を根拠として右体育館の使用を拒否したことはいずれも当事者間に争いがない。

2 さらに《証拠省略》によると、多人数で組織される組織体であり、規約に基づいて代表者が選出され、独自の財産を有するいわゆる権利能力なき社団である原告は部落解放同盟が無法と不公正であり、被告行政への介入及び被告のこれらに対する協力、加担が不当なものであるとし、その実態を市民の前に明らかにすることを目的として、昭和五〇年一二月一五日午後六時三〇分より右体育館で演説会を開催することを企画したこと、そのため同年一一月二一日に原告委員会の委員である右吉田が体育館に電話をし、前記日時の体育館の使用承認申込をなしたところ、被告の職員である本田正美が右電話をうけ、右日時の体育館の使用に内諾を与えたこと、しかしながら被告の前記のような使用不承認により結局右演説会は開催することができなかったことが認められ(る。)《証拠判断省略》

尤も被告は原告が当日体育館前路上で演説会を事実上開催しており、原告の目的は十分達せられている旨主張するが、右吉田の証言によると、右集会は会場を借りることができなかったことに対する抗議集会であったことが認められ、他に被告の右主張を認めるに足る証拠はないから、被告の主張は採用できない。

二、そこで本件使用拒否が適法なものか否かについて判断する。

1  前認定のとおり被告は右演説会の使用について条例第六条第三号に該当し、ひいては地方自治法第二四四条第二項にいう施設利用拒否の正当事由にあたるとして、使用を拒否したものであるが、右使用拒否の経緯については、《証拠省略》によると、右体育館館長の田中種昭は昭和五〇年一二月一〇日朝、右体育館で同月一五日に原告主催の演説会が開催されることをチラシをみて知り、右演説会が被告の推進している同和行政と相容れないものであって、基本的人権に関わる問題であると考え、早速教育長と相談をし、結局管理に支障を及ぼすことになるので使用を認めるわけにはいかないという結論に至ったこと、右チラシは右演説会の開催についての案内であって、同チラシには「北九州市政での『解同』上杉、木村派のおどろくべき無法、不公正を追及する」という標題があり、本件演説会の目的が右解同とそれに協力している被告市政を批判して正しい部落解放と公正民主的市政の実現をめざすものであるという趣旨の記載があること、又本件使用拒否の前後に亘り昭和五三年六月ころまで被告の同和行政を批判する集会には被告は公の施設を使用させることを拒否しつづけていたこと、しかるに日本共産党の演説会でも右同和行政以外の市政を批判するものについては右使用を許可しており、さらに右体育館では本件以降他の団体の集会でも前記目的以外のものについては使用を拒否された例がないこと(この事実は当事者間に争いがない。)がそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。

2  ところで集会の自由、表現の自由は民主主義社会存立の基盤をなす最も重要な基本的人権の一つであり、とりわけ本件のような政治的集会の自由は民主政治実現のための基礎であるのであって、右自由は最大限に尊重されなければならないことはいうまでもないが、しかし右自由も無制限に行使しうるものではなく、右集会が公の施設を利用して行なわれる場合には、その施設の設備目的、構造、集会の形態、規模等との関連において、その施設の管理主体の設定する利用条件に従い、合理的な制限に服することも又止むを得ないことであって、集会の自由のゆえに当然に施設利用の利益を享受できるものでないことは明らかなことである。

今本件についてみるに、右体育館が地方自治法の「公の施設」に該ることは当事者間に争いがなく、同法第二四四条第二項では「普通地方公共団体は正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。」と規定し、同法第二四四条の二第一項に基づき定められた条例第六条では公の施設の使用制限事由として第一号で「詐欺その他不正の手段により使用したとき」第二号で「この条例またはこの条例に基づいて制定した規則もしくはこれらに基づく処分に違反し、またはこれらに基づく関係職員の指示に従わなかったとき」第三号で「その他施設の管理に支障を及ぼすおそれのあるとき」と各規定しており、前認定のとおり、被告は右演説会が右条例第六条第三号に該るとして、使用拒否をなしたものであるが、しかし前記のとおり集会の自由の重要性に鑑みれば、右「管理」とは通常は限定的に当該施設の構造等物的設備としての施設の管理を指すと解すべきであって、本件のように演説会の内容自体に立ち入って管理に支障を及ぼすか否かを判断することは特段の事由のない限り許されないものと考えるべきである。

3  尤も被告は第三号の「管理」とは広く行政目的に沿った管理運営を指すのであって、公の施設を使用させることが被告の行政上の基本的立場と相容れない場合、あるいは基本的人権の侵害をきたすおそれがある場合には右条項に該当する旨主張し、同和問題の特殊性の点から本件使用拒否の正当性を主張する。

右施設使用の許否が集会、言論の自由という基本的人権と密接な関係があることに鑑みれば、施設の使用承認がかえって他の基本的人権を直接侵害し、且つそのおそれが明白であるようなことがあれば、それは例外的に施設の管理に支障を及ぼす場合に該当するということができようが、しかし原告が演説会を開くことによって、被告の行っている同和行政に支障を生じ、或は同和地区住民が無法と恫喝の集団であるとの偏見を植えつけることによって部落差別を助長するおそれという被告の主張は右にいう直接且つ明白な基本的人権侵害のおそれとはいゝ難い。

つぎに、被告の行政的立場を批判することを目的とする集会に被告の管理する施設を使用させることが、その管理に支障を及ぼす場合に該当するものとは到底いうことはできず、これが同和問題に関することであっても道理を異にするものということはできない。

以上のとおりであって本件体育館の使用を承認しなかった教育長の行為は前記地方自治法及び条例の解釈を誤った違法なものといわざるをえないのである。

三、次に被告の責任について判断をすすめるに、被告は右体育館の設置並びに管理者であり、右管理権は被告の機関である教育委員会に属し、同委員会はさらにその権限を教育長に委任していることは当事者間に争いがなく、前記使用拒否に至った事情並びに《証拠省略》により認められる昭和五〇年三月に、本件と類似の事案において被告がなした小倉市民会館の使用許可取消処分について、福岡地方裁判所及び同高等裁判所で被告敗訴の判決がなされているという事実を総合すれば、右教育長らは体育館の管理運営をなす公務員として通常要求される判断を誤り、違法な使用拒否をなしたと解せられるから、少なくとも過失があったということができ、したがって被告は国家賠償法第一条第一項により、右違法行為により原告に与えた損害を賠償する責任があるというべきである。

四、そこで原告の損害について判断をすすめる。

1  宣伝活動費等

《証拠省略》によると、右体育館の使用は通常口頭で申込をなし、後日使用者が使用料とともに手続上使用承認申請書を提出するのが慣例となっていたこと、本件演説会の宣伝のために原告は請求原因4(1)記載のとおり計二四万七、〇〇〇円の出費をなしたことが認められ(る。)《証拠判断省略》

以上の事実に、前認定の、右吉田が昭和五〇年一一月二一日に電話で使用承認申込をなし、被告職員の本田正美より内諾をうけた事実を総合すれば、右日時に正式の使用許可があったとはいいえないにしても、右体育館の慣例からその日時に原告が右体育館の使用について期待をもつことは合理的なものだということができ、したがって右出費はすべて被告の前記違法な使用拒否と相当因果関係のある損害というべきである。

2  非財産的損害

原告のような権利能力なき社団も法人と同様個々の構成員を離れて別個の社会的存在を有して活動するのであるから、その社会において有する地位すなわち品格、名声、信用等を有するのであり、したがって右品格、名声、信用等が侵害され、社会的評価が低下、減退させられるときは、自然人、法人と同様に非財産的損害を被むることになると解すべきである。

そして本件についてみるに、前認定のとおり被告の違法な使用拒否により、原告は政治団体として最も基本的な権利である集会の自由、表現の自由を侵害されたものであり、本件演説会の規模はできれば聴衆数千人を予定したものであったこと(右吉田の証言)をも合わせ考えると、原告が政治団体としてかかる演説会を催すことにより、自己の政策を広く市民にアピールし、それにより支持者を増加させるという機会を失ったことによって得るべき社会的評価や信用を喪失したと容易に推察でき、その意味で社会的評価や信用が低下したと考えられるのであり、さらに《証拠省略》によれば本件以後原告は被告の同種の違法行為を中止させるために市民集会を開いたり、学者文化人のアピールを出すなどの活動をし、そのため多額の出費をなしたことが認められるのであって、この点をも考慮すると結局原告は被告に対し、右違法行為によって被った非財産的損害の賠償を請求することができるというべきである。

そしてその損害額は原告の構成と目的、その活動範囲、本件演説会の目的、規模、被告の違法行為の態様等諸般の事情を考慮して三〇万円の金銭評価が相当であると認める。

3  弁護士費用

《証拠省略》によると、原告は本件訴訟代理人である弁護士に本件訴訟の提起、追行を委任し、着手金として三〇万円支払ったことが認められるが、本件訴提起の態様、認容額、事案の難易等本訴に現われた一切の事情を考慮すると結局本件不法行為につき被告に負担させるべき弁護士費用は五万円とするのが相当である。

五、以上の次第で原告の本訴請求は、被告に対し五九万七、〇〇〇円及びこれに対する弁済期以後の日である昭和五一年二月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 諸江田鶴雄 裁判官 豊田圭一 竹中邦夫)

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